エンパワーメント(empowerment)は、ビジネスシーンでは個人に対して権限を委譲することを指します。エンパワーメントは組織の健全な発展のために不可欠な要素です。この記事ではエンパワーメントの概要と取り組みの方法、ポイントについてご紹介します。

エンパワーメントとは

まずはエンパワーメントの基本からお伝えします。

基本的な言葉の意味

エンパワーメント(empowerment)は英単語の「empower(〜ができるようにする)」の名詞形で、本来は「権限を与えること」「自信や力を持たせること」を意味する英単語です。ビジネスシーンでは「社員に対して権限を委譲すること」を指します。また、実際の利用シーンでは権限を委譲するだけでなく、社員が自立して判断・行動できる状態をつくるためのサポートまで含んだ言葉として用いられることが多いです。

エンパワーメントのイメージ画像です
エンパワーメントのイメージ

お分かりかと思いますが、権限を委譲する側が上司、委譲される側が部下であることが大半です。上司が部下をエンパワーメントする形で実行します。

エンパワーメントが使われる場面

ちなみにビジネス以外の場面もエンパワーメントという言葉が使用されますが、使用される業種業界によって少しずつ意味が異なります。例えば看護においては「看護師や医者と患者の関わりを通じて、患者が自発的に治療に関与する状態をつくる」ことを指し、教育の場面では「親や教師が、子どもが本来持っている力を引き出してあげるような教育をする」ことを指します。
文脈によって意味合いが異なりますので、注意してください。今回の記事ではビジネスにおけるエンパワーメントの意味に限定してご説明します。

エンパワーメントに取り組む目的

エンパワーメントに取り組む目的は大きく2つです。

業務進行と育成を効率化するため

エンパワーメントの良さの1つは、部下が上司を頼らずに自分で業務を進行できるようになることです。調整や指導の手間が減ることで上司は自分の業務に集中できるようになり、業務のスムーズな進行に繋がります。また、部下が自ら考え実行することで学びが増え、育成スピードが向上することも期待できます。

事業や組織を拡大するため

事業や組織拡大のタイミングで業務を分担するため、必然的に権限を委譲する場合があります。新規事業やプロジェクトを立ち上げる際、部下をリーダーに指名し立ち上げを依頼するなどです。このケースでは委譲する権限範囲が大きいだけでなく、業務も未知な領域であることが多いため、委譲した上司も経験したことのない業務が発生する可能性があります。誰に委譲するか、その後どう管理していくのかを、より慎重に検討する必要があります。

エンパワーメントのメリット・デメリット

エンパワーメントにはメリットはもちろんデメリットも存在します。確認し、よく検討してから取り組んでみてください。

■メリット

次期メンバーの育成に繋がる

指示をもらって取り組むよりも、やはり自分で考えて実践し振り返りをすることの方が多くの学びが得られます。最初のころは委譲した業務のクオリティが低く不満を抱いたり、任せることに不安になったりするかと思いますが、まだ未熟なうちに権限を委譲することで将来的な育成の負担軽減が期待できます。

スピーディーな意思決定ができる

上司がすべての意思決定権を持っていると、確認待ち・次の指示待ちのメンバーが増え業務が停滞してしまいます。自分で決断して進められる体制をつくってあげることで、各業務だけでなく事業全体のスピード感を上げることができます。

社員の力を引き出す

特に規模の大きい企業では、社員に対して同様の仕事を割り振り、手順も揃えて画一的に業務を進めてもらう場面が多くなります。しかし個々のメンバーにはそれぞれ得意分野があり、取り組みやすい進め方があるはずです。少し大きめに業務を渡し、自分で考えて取り組んでもらうことで社員個々の能力を最大限発揮することに繋がります。

中途入社したメンバーが定着しやすくなる

中途入社の場合、まずは企業のカルチャーに馴染むことが課題になります。入社したメンバーが自主的に動ける環境を整え、現場作業に積極的に取り組める状態をつくることで、より早い組織定着に繋がります。

■デメリット

責任の所在が曖昧になる

「権限責任一致の原則」と言われるように、原則的に権限と責任範囲は一致しているべきです。しかしビジネスシーンでは責任範囲の共通認識を持てていないことで、自由に実行するのは部下でも最終的な責任を取るのは上司であることも多く見受けられます。正しくエンパワーメントできなければ、責任逃れや無責任な発言・行動が発生しかねません。

組織と個人で方向性が一致しないことがある

権限委譲したメンバーの意見をすべて反映しようとすると、社員個人の考えと組織の考えが異なり意思決定に迷うケースが出てきます。どの範囲まで自分で考えてもらうか、もし意見が食い違った場合にどう判断するのかの認識が揃っていなければ、組織が分裂してしまいます。

エンパワーメントに向かない社員には負担になる

従業員の中には与えられたタスクをこなすことが得意なメンバーや、あまり責任を持ちたくないと考えるメンバーもいます。そうしたメンバーでも自立できる環境を整えるのがエンパワーメントではありますが、うまく権限委譲するためには、社員の業務内容や進め方、スキル、性格などを加味してある程度個別化して取り組む必要があります。

エンパワーメントの取り組み方

エンパワーメントは取り組み自体はシンプルで、以下の3ステップで実践することができます。

1. 任せたい業務と権限範囲を伝える

まずは権限を委譲する業務と、その範囲を正確に伝えます。基本的な部分ですが、ここで共通認識を取ることがエンパワーメント成功の秘訣です。例えばある施策を依頼したとして、施策の目標や予算をこちらから指定するか、自由に決めて良いとするかなど、細かい部分まで認識を揃えておかなければ、後から齟齬が起きてしまいます。

2. 実践してもらい、一緒に振り返る

任せた範囲の中で業務を実行してもらい、権限を委譲した側(上司)と委譲された側(部下)で振り返りを行います。1on1形式で部下自身の振り返りに比重を置いて取り組むのがおすすめです。また、結果の要因を正しく把握するためにも、定量的な結果だけでなく取り組みの内容や報連相の方法などの過程も含めて振り返りをしてください。振り返りの方法について紹介している記事の中から、進めやすいものを選んでいただけると良いと思います。

3. エンパワーメントの方法について振り返る

ここで忘れてはならないのは、権限を委譲した側も「エンパワーメントの方法が正しかったか」を振り返ることです。権限を委譲された部下が業務をうまく進められないのは当然のことで、上司は部下をどうエンパワーメントすべきかを考える必要があります。権限範囲の認識を揃えられていたか、サポートの仕方は適切だったかなど観点をいくつか出し、振り返りをしてみてください。場合によっては、部下に対してどのようなサポートが必要か、直接聞いてみても良いでしょう。

4.振り返りをもとに再び実践、を繰り返す

振り返りの内容をもとにして今後の目標を立て、継続して業務を進めてもらいます。
権限を委譲した部下が完璧に1人で業務をこなせるようになるまでには少し時間がかかります。安心して業務を任せられる状態になるまでは週次か隔週で振り返りの機会を設けて、実行→振り返りの流れを根気強くサポートしてあげてください。部下が業務に慣れてきたら、振り返りの頻度を減らしたり観点を変更したりして、少しずつ手を離していくと良いと思います。

(参考)OODAループを用いて業務進行してもらう

上記の流れを分かりやすく進めるため、エンパワーメントにOODAループを使用することがあります。

OODAループのイメージ画像です
OODAループ

OODAループとは図の通りObserve(観察)Orient(判断)Decide(決定)Act(実行)の流れを繰り返す、意思決定と行動の理論です。よく似た手法にPDCAがありますが、PDCAは自分で計画を立てるところから始めるのに対してOODAでは相手を観察することから始まり、そのときの状況に合わせた臨機応変な対応を取ることになります。

スピード感を意識できることから人材育成や組織開発のフレームワークとして定着していて、エンパワーメントにも適応することができます。部下に権限委譲した際にOODAループを意識して取り組んでもらうよう伝えるのも有効ですし、上司側がエンパワーメントする際にも活用できます。ひとつの手法として、覚えておくと便利です。

失敗例と取り組みのポイント

エンパワーメントは正しく進めなければ失敗の起こりやすい取り組みです。失敗事例と、うまく進めるためのポイントをご紹介します。

エンパワーメントの失敗例

ただの責任放棄になっている

当然のことですが、権限委譲しようと言ってもタスクを投げっぱなしにしてはいけません。エンパワーメントする側にも権限委譲する責任が伴います。ただ権限を与えるだけでは部下も困惑してしまい、うまく進めることができません。

権限委譲することが目的化してしまう

エンパワーメントは部下の育成や事業拡大などの目的のもと、一つの手段として存在するものです。権限を委譲して満足しないよう、注意が必要です。

部下がプレッシャーや負担を感じてしまう

依頼されたタスクをこなす、というスタイルで仕事をした時間が長ければ長いほど、自分で考えて実行することに苦手意識が強くなります。突然大きなタスクを依頼されサポートも何もなければ、心理的な負担を感じ、ストレスになりかねません。

取り組む際のポイント

しつこいくらいに共通認識をとる

エンパワーメントに取り組む前に、以下のような項目に対する認識を揃えておくことが何よりも重要です。何度も言い過ぎだと思うくらいに伝え続けることがエンパワーメントのポイントです。

  • 目標…依頼した業務が最終的に何に繋がっているのか
    (例)将来的に時価総額1兆円の企業を創りたい。そのための重要なマイルストーンとなるプロジェクトのリーダーを任せている。
  • 権限範囲…どこからどこまで依頼したいのか(Why/What/Howなどの粒度で)
    (例)目標は伝えるので、実行方法の検討と実行はすべて任せたい。
  • 進行方法…報連相の基準やタイミング、方法
    (例)施策の実行を全てお願いしたいが、着手する前に必ず内容を確認させてほしい。
  • 期限…権限委譲は一時的なものか、長期的なものか
    (例)プロジェクトのリーダーは3ヶ月後のプロジェクト終了まで依頼したい。事業部のマネジメントは、一時的に任せてみて問題がなければそのまま担当してほしい。

意図や期待を伝える

部下に自発的に業務を進行してもらうためには、部下が信頼されている実感と自信を持てることが重要です。いやいや任された感覚や、本当は誰でも良かったのだろうというような思いが生じないよう、部下に対する期待とその背景を伝えてあげてください。「なぜあなたに任せるのか」「どのくらい重要なポジションなのか」「こういう役割を期待している」などをできるだけ具体的に伝えることが大切です。

最初は本人の強み・得意分野に合わせて任せてみる

特にこれまで役職についたことのないメンバーの場合は、いきなり初めて体験する領域を任せてしまうと、失敗した際にトラウマになりかねません。まずは少しチャレンジングだと思えるくらいの業務から依頼してみて、成功体験を積んでもらうのがおすすめです。

失敗を許容し、粘り強くエンパワーメントし続ける

エンパワーメントに取り組んだ初期の段階では当然ミスが多発したり、期待したレベルに到達しなかったりします。しかし失敗は誰にでもあることであり、きちんと振り返りをして実行し続けることで本人にとっても事業にとっても大きな学びが得られます。最初から完璧を求めず、粘り強く任せ続けてみてください。

おわりに

業務は任される側はもちろん、任せてマネジメントする側にもスキルが必要です。はじめは不安が伴うかと思いますが、部下の成長のためにも事業や組織の発展のためにも、権限委譲はとても重要なポイントです。ぜひ、まずは小さい業務からエンパワーメントしてみてはいかがでしょうか。

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