「組織全体の強み」を意味するケイパビリティは、企業の規模や業種を問わず企業の成長において不可欠な要素です。ケイパビリティの概要から活用の方法までをご紹介しますので、ぜひ記事を参考に自社のケイパビリティを考えてみてください。

ケイパビリティとは

言葉の意味と特徴

ケイパビリティ(capability)とは、一般的に「才能」「力量」を意味する言葉です。ただ、ビジネス上ではもう少し意味を限定して「企業全体の持つ能力」、またそこから派生して「組織独自の強み」という意味合いで用いられます。

ケイパビリティの特徴は個人ではなく組織としての能力を指しているという点です。従業員の個々人のスキルではなく、業務プロセスやチーム体制など組織全体としての強みを指します。
例えば、営業部門の一部の社員の頑張りによって全体の業績が上がっていたとしても、それは企業のケイパビリティにはなりません。営業部門の全社員が平等に成果を上げられるようオペレーションが整備されている、営業プロセス自体に他社には真似のできない工夫があるなど、組織・事業のあり方によって差異が生まれている状況でこそ、ケイパビリティが確立できていると言えます。

ケイパビリティの重要性

ケイパビリティが重要と考えられるようになった背景には、デジタル化の推進によるビジネス環境の複雑化があります。刻一刻と市場の状況が変わっていく中で、他社に負けず安定的に経営し続けていくには、企業としての強みを持ち続けることが重要です。サービスの価格やマーケティング施策のような変更可能且つ模倣が容易な要素ではなく、独自の仕組みや文化を作り上げることで、一朝一夕では築き上げられない組織の強みを確立することができます。

コアコンピタンスとの違い

ケイパビリティと似た意味で用いられる言葉にコアコンピタンスがあります。コアコンピタンス(core competence)も端的に言うと「企業が持つ強み」を意味するためケイパビリティと混同されがちですが、具体的には以下のような違いがあります。

  • ケイパビリティ: 業務プロセスやチーム体制、組織構造
  • コアコンピタンス: 技術力・開発力などのスキルそのもの、専門的な作業

ケイパビリティは組織のあり方に関連するものである一方、コアコンピタンスは企業の持つ特定のスキルを指します。コアコンピタンスの方が粒度が一段小さくなるイメージです。ただ、実際のところ両者はかなり密接に関わっていることが多く、厳密に使い分けられないケースも多くあります。コアコンピタンスの詳細について説明している記事も参考にご覧ください。

ケイパビリティの事例

ケイパビリティに関する具体的な企業の事例をご説明します。どちらも組織力に関わる強みを持っていますので、参考にしてみてください。

リクルートの「リボンモデル」

リクルートのケイパビリティは「リボンモデル」というビジネスモデルです。リボンモデルはユーザーとクライアントを結びつける概念で、名前の通り、以下のようなリボン型で表すことができます。

リクルートはこのリボンモデルをあらゆる業種業界に適用することでビジネス化しています。例えば新卒採用を行う企業と就活生をマッチングするリクナビや、美容院と髪を切りたい顧客を繋ぐホットペッパービューティーなどです。このリボンモデルを用いることで数々のビジネスが生まれ、それらの既存事業から得られたデータを元に新規事業の開発にも取り組んでいます。また、事業拡大に合わせてナレッジシェアや協働の仕組みづくりを徹底したことで、リクルートならではの文化が生まれ、模倣不可能なビジネススタイルが実現しました。

ZARAの製品製造プロセス

ファストファッションで有名なZARAも、他社にはない製造プロセスの工夫によってケイパビリティを生み出しています。

ZARA公式

洋服の製造時にはざっくり言うと企画→設計・デザイン→製造→出荷というプロセスがあります。ZARAはそのうち製造をすべて自社工場で行うこと、その他の業務は本社で行うこと、という他のファッションブランドとは異なる体制を敷くことによって、オペレーション・コストの最適化を図っています。また、その流れによって製品完成までのリードタイムを大幅に短縮できたことから、新商品を2週間スパンで販売できるようになり、いつでも最新のファッションを手に入れられる、というブランドとしての強みが生まれました。

ケイパビリティの見つけ方

ケイパビリティは重要な要素ですが、ただ事業を運営しているだけでは見つけづらく確立できないため、一度きちんと見直してみることをお勧めします。今回は、ケイパビリティを見つけるためによく利用される方法を2つご紹介します。

SWOT分析

一つはSWOT分析です。内部・外部の環境とプラス・マイナスの4つの軸で以下のような4象限に当てはめながら、自社・他社の強み弱みを明らかにします。

SWOT分析の画像です。
  • Strength: 自社の強み
  • Weakness: 自社の弱み
  • Opportunity: 外部環境から提供されるプラスの機会
  • Threat: 外部環境に関わるもので自社にとって脅威となるもの

SWOT分析では上記のフレームワークに従ってアウトプットしていくことで、社内の状況を相対的に評価することができ、解決すべき事業上の課題や自社ならではの強みの明確化に繋がります。ただフレーム自体はやや抽象的なので、ケイパビリティを考える際には闇雲に考えるのではなく、ビジネスモデル、組織体制など企業の仕組みに関わる部分を重点的に洗い出すよう意識しましょう。

バリューチェーン分析

バリューチェーン分析は、自社製品の価値提供プロセスを明らかにするための分析方法です。例えば先ほど挙げたZARAのような製造業であれば、販売までに以下のようなバリューチェーンが考えられます。

バリューチェーン分析に関わるイメージ画像です。

業務プロセス自体は業種・業界で共通していることも多いですが、どの工程に注力しているのか、どの工程で価値が生まれているのかは企業の戦略によって大きく異なります。バリューチェーン分析を行うことで、自社のサービス・製品を顧客が手にするまでの一連の業務プロセスを可視化し、提供価値を明確化することができます。

基本的にはバリューチェーン分析の方がSWOT分析よりも具体度が高いため、SWOT分析の中のひとつの観点としてバリューチェーン分析を行うこともおすすめです。

ケイパビリティを生かすためのポイント

ケイパビリティを活用するためのポイントは以下です。

Asis Tobeを明確にする

ケイパビリティとなりうる要素が分かったとしても、市場において優位性を持つことができなければ理想的な状態とは言えません。現在の自社の状況(Asis)と、ケイパビリティを確立し完璧に活用できた場合のベストな状況(Tobe)を明らかにし、改善点を検討しましょう。Asis Tobeの考え方について説明している記事も参考に考えてみてください。

自社ならではのケイパビリティを見つける

ケイパビリティは同業他社と比較した上で自社が市場で勝つことのできる要素ですので、当然ですが同業種でもケイパビリティは大きく異なります。
例えば同じ機能を持つITサービスを提供している企業でも、セールスメンバーが営業することで導入企業数を増やす企業と、マーケティングに注力し顧客自身による導入を促している企業とでは、組織体制も業務プロセスも大きく異なります。
強みとする箇所が異なるだけで、方法に良し悪しはありません。競合他社や市場の動向に影響されすぎず、自社にとってのケイパビリティを見つけ出すことが重要です。

ダイナミック・ケイパビリティを検討する

ケイパビリティに関する考え方の一つとしてダイナミック・ケイパビリティがあります。通常のケイパビリティは社内の業務プロセスのみが対象ですが、ダイナミック・ケイパビリティではより広範囲に組織全体を再編成していきます。慶應大学の菊澤教授の論文の中では、以下の3つの要素を含むとされています。

  • センシング(感知)…環境の変化による脅威を察知する
  • シージング(捕捉)…環境変化をひとつの機会と捉え、自社の資源で対応する
  • トランスフォーミング(変革)…競争優位性を確立するため自社の資源を再構築する

例えば組織の持つ資源の配分、外部ベンダー、既存のシステムなども見直しの対象となります。全体を見直すことで、環境の変化に適応し、常に安定したケイパビリティを持つことを可能にします。ビジネス環境の変化が著しい時代の中で柔軟に経営していくためには非常に重要な考え方です。

まとめ

ケイパビリティは企業の成長に欠かせない重要な要素です。市場の変化に柔軟に対応し、自社独自の強みを持ち続けることで、さらなるビジネスの勝ち筋に繋がります。自社事業のケイパビリティは一体何なのか、どうしたらトップになれるのか、ぜひ一度考えてみてください。

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