属人化とは、ある業務を担当している特定のメンバー以外が業務内容を把握しておらず、代替できない状態を言います。属人化は悪いものとして語られることが多いですが、業務内容によっては属人化によって提供価値を向上させ、競合優位性を生む場合もあります。本記事では、属人化の詳細と良いケース・悪いケースについて言及し、悪い属人化をどのように解消したら良いかご紹介します。

属人化とは

属人化の言葉の意味

属人化とは特定の業務の担当者以外が業務の内容を把握できていない状態を指します。そのため、担当者以外の人が業務を代替できなかったり、当該業務の品質の良し悪しを判断できなかったりという問題が発生します。
属人化の対義語として「標準化」が挙げられますが、これは対象の業務のやり方や流れが明確になっていて、担当者以外のメンバー誰でも同じように業務を進行できる状態を指します。

なぜ属人化が発生するのか

属人化は様々な要因によって発生します。もちろん複合的な理由で発生する場合もありますが、主に以下のような状況が背景となる場合が多いです。

  • 作業の方法が可視化、見える化されていない
  • 業務の専門性が高く、教育や引き継ぎに時間とコストがかかる
  • 作業者が保身のために意図的に業務を抱え込んでいる
  • 他の人に依頼するよりも自分で取り組んだ方が早いと考えている
  • 現状の業務負荷が高く、標準化に取り組む時間がない

属人化は必ずしも悪いことではない

属人化は組織にとって悪い状態と認識されることが多いですが、属人化が常に悪であるとは限りません。詳細は後述しますが、業務の特性によっては属人化が競争優位性を実現する場合もあります。また、標準化される業務も、業務開始時から完璧に標準化されているケースは少なく、属人化→標準化とうループを回すことで、試行錯誤しながら拡大可能な汎用的な業務に進化させていくことができます。

属人化がメリットとなる場合

まず、属人化がメリットとして機能するのは以下の特徴を持った業務の場合です。

  • 作業内容や業務内容が毎回異なるもの(戦略立案、コンサルティング、など)
  • 業務自体に高い専門性が求められるもの(医療、職人、など)
  • 正解や正攻法が不明瞭な業務(立ち上げ期にある業務、新規サービス、など)

具体的には、経営戦略や営業戦略などの戦略立案や、手作りの伝統工芸品など人手のスキルに依存して生み出される商品やサービス、業務が対象となります。
また、標準化されている業務もよく見ると、属人化と標準化のサイクルを小さく繰り返しているケースがほとんどです。これは標準化されるあらゆる業務も最初は不確実な状態から生まれて徐々に正攻法やベストな形がわかってから標準化される、というアプローチを取るためです。

属人化から標準化への流れ
属人化から標準化への流れ

一度、標準化された業務も顧客や外部環境の変化、より良いものを提供しようとした場合、個人レベルの小さな試行錯誤から取り組まれます。その意味で、標準化されるべき業務も属人化→標準化のサイクルを繰り返し続けているのです。以下に属人化の具体的なメリットを記載します。

スペシャリスト(専門家)として価値が提供できる

特に専門性が高く、サービスを提供するために習熟が必要な業務が対象になります。例えばコンサルタントなどは特定の業界や業務、市場に深い理解を持っているからこそ、価値提供ができています。このように、事業やサービスの提供価値自体が“人”の場合は、ネガティブな属人化ではなく、プロフェッショナルといえます。

業務の習得に時間がかかるケース

業務に携わるまでに経験や学習の時間が長く必要となるものです。これは、標準化が機能しないと表現することができます。前項のスペシャリストとも重なりますが、弁護士や会計士、医者など、そもそもの業務に従事できるようになるまでに時間がかかるような場合が該当します。

個人の能力が競争優位性になる場合

例えば高単価で複雑な商材の営業などが対応します。法人向けにオーダーメイドでシステム開発を提案するような場合、顧客のニーズや状況などに対して深い理解と洞察が必要になります。当然、顧客ごとに状況はバラバラのため求められる最適解が変わります。このような業務においては、営業を担当するメンバーの得意領域や特定のスキルに依存して価値が提供されることになり、その人自身のスキルや能力が企業・組織の競争優位性に直結します。

新たなノウハウの獲得や進化の模索をしている場合

冒頭でも記載しましたが、標準化されている業務であっても初期のころは属人的に取り組まれていることがほとんどです。また、一度標準化された業務でもさらなる進化のための試行錯誤はやはり個人の考えや工夫、想像に依存して生み出されます。このように標準化されている業務の中でもさらなる改善のために、小さな工夫や試行錯誤が一時的に属人化していることは好ましい状態と言えます。

属人化がデメリットとなる場合

次に属人化のデメリットについてご紹介します。以下に該当する業務は、属人化がデメリットとなります。

  • 業務の複雑性がそれほど高くない
  • 作業の内容が決まった定型的な業務である
  • 対象の業務の発生頻度や発生量が一定ではない
  • 独自性よりも安定した品質やスピードが求められる

属人化のデメリットを端的に述べると事業におけるQCDの低下、拡大の阻害、変化への脆弱性を生み出す原因となります。詳細は以下の通りです。

ボトルネックを生み出し業務効率を低下させる

属人化した業務は担当しているメンバーが代替出来ないことにより、業務量が増えた場合にボトルネックを生み出します。事業全体として推進速度や対応量を向上したい場合にも課題となってしまいます。

属人化によってボトルネックが発生
属人化によるボトルネック

業務品質や作業スピードが安定しない

特定の業務を複数人で担当している場合で、やり方が個々人に属人化しているケースです。同じ業務内容なのに担当者によってやり方が異なる結果、業務の品質にばらつきが生まれます。また、品質だけなく対応速度も属人化によって差異が発生する場合が多く、顧客の満足度低下に繋がってしまいます。

ブラックボックス化によりミスに気づけない

業務が属人化することで、その業務の結果が良いのか悪いのかが客観的に判断できなくなります。その場合、現場でミスやトラブルが発生していても担当している人が検知できず、最悪、隠蔽や改ざんが発生します。

改善に取り組めず業務効率が悪化する

業務に携わっていないメンバーが、属人化している業務の内容や対応を理解できない結果、客観的な評価やアドバイスが難しくなります。それにより業務の対応方法が硬直的になり改善が進まなくなってしまいます。また、実際に業務に携わっている人自身が改善活動に取り組みたいと考えた場合にも、その人以外が業務を担当できないことで業務負荷が高くなり、そもそも改善活動に取り組む時間がない、という状況に陥ります。

メンバーの適切な評価や状態の判断ができない

上司が部下の評価を行う際に、その業務が属人化していて上司が理解できない場合、適切な評価ができません。また、作業の担当者から「業務が大変だからメンバーを増やすか業務を減らしてほしい」と言われた場合に、メンバーや体制についての適切な意思決定ができません。

急激な業務量の増加に耐えられない

業務の属人化により、業務量が急激に増えた場合にサポートできる人がいない状態が発生します。そこで、いざ人を増やす際にも、作業担当者の経験値としてしかノウハウが存在しないので、引き継ぎや教育に大変な時間がかかり、そもそも作業者がその時間を捻出することが困難となる場合も少なくありません。

担当者が休む・辞めると業務が止まってしまう

「担当のXXさんがやめたら業務が止まってしまう」「XXさん以外に誰も知っている人がいない」という状況も属人化によって発生する問題です。特に業務プロセスの中で主要な作業を担うメンバーの退職や不在によって業務全体の流れが止まってしまいます。また、これは具体的な作業だけでなく、特定の知見やノウハウなど目に見えない情報が個人に依存している場合も含まれます。

以上が、属人化がデメリットになるケースです。反対に標準化のメリットについて解説している記事もありますので、参考にしてください。

属人化しているかチェックリスト

ご自身の組織やチームが属人化しているかどうか、以下の項目に照らし合わせてみてください。該当しているものが4つ以上存在する場合は業務が属人化している可能性が高いです。

  • 詳細を把握している人が1人しかいない業務が存在する
  • 定形業務だがマニュアルが存在しない、または古い
  • いつ、誰が休んでも大丈夫な状態になっていない
  • 引き継ぎに1ヶ月以上必要な業務が存在する
  • 新人を教育する方法がOJTまたは口頭伝達のみ
  • 作業負荷が集中しているメンバーがいて、他の人が作業を代われない
  • 直近6ヶ月以上、改善に取り組めていない業務がある

属人化を解消して業務を標準化する方法

属人化を解消する具体的なアプローチ方法をご紹介します。基本的にはステップの順番に合わせて取り組んでいただけますが、状況に合わせて取捨選択いただいて問題ございません。
また、属人化はクラウドサービスを利用して解消できるケースもあります。属人化を解消できるツールをまとめた記事もありますので、合わせて参考にしてください。

1. 属人化の状況について把握する

作業を実施しているメンバーにヒアリングをして、本当に業務が属人化しているかどうか、解消に取り組むべきかどうかについて判断してください。
可能であれば、業務を担当しているメンバーに30分〜1時間ほどヒアリングをして前項で列挙したチェックリストについて所感を確認してください。また合わせて担当している業務について以下の項目を確認してください。

  • どのような業務に取り組んでいるか
  • もし新人に引き継ぐ場合にどのくらいの時間がかかるか(難易度の評価)
  • 部署の機能においてどの部分を担っているか
  • 自分の業務の品質を適切に評価できる人がいるか
  • 急遽、明日から1週間休むことになったらチームにどれだけ影響があるか

ここで詳細なヒアリングを実施したい場合は業務ヒアリングの方法とポイントについてまとめた記事がありますので、合わせて確認してください。

2. 担当者の業務量を一時的に抑制し標準化を評価する

これは、作業担当者の業務負荷が常時高く、そもそも標準化に取り組む時間がない場合に有効です。現場担当者は業務の標準化に取り組みたいと考えていても忙しすぎてそれどころではないという状況が多く存在します。また、標準化の活動自体が評価に繋がりづらく、わざわざ業務を止めて標準化するくらいなら、自分で少しでも多くの業務をこなしたほうが良いと考えている場合もあります。この状況を打破するためには、管理者やマネージャーが業務量を一時的にコントロールし、標準化の活動に取り組むように推奨してください。また、その活動を必ず評価してください。そうすることで、空いた時間で標準化に取り組み、中長期的に可用性の高い体制を構築できます。

3. 業務フロー図を作成する

業務フロー図は業務の大まかな流れを図解したものです。もし、管理者やメンバー間における業務の理解度が高い場合は割愛いただいても問題ありません。著しく業務の理解度が低い状態であれば、先に概要を俯瞰的に把握するために業務フロー図を作成することが有効です。

業務フロー図のサンプル画像です
業務フロー図のサンプル

業務フロー図は管理者やマネージャーが現場のメンバーにヒアリングしながら作成しましょう。業務フロー図の具体的な作成方法についてまとめた記事がありますので、合わせて参考にしてください。

4. 作業手順書を作成する

作業手順書を作成することで詳細な業務内容について可視化することができます。フロー図よりも、各業務について詳細な作業説明を記載したものです。

作業手順書のサンプルです
作業手順書のサンプル

こちらもフロー図と同様に業務のヒアリングをした結果をもとに作成しますが、かなり詳細に踏み込んだ内容となるため、現場の担当者に作成を依頼することをおすすめします。また、業務が属人化している場合、同じ作業を担っているメンバー同士でもやり方が異なることが多いため、最初にメンバーごとに作業手順書を作成して、後から最適な業務手順を模索すると良いです。作業手順書の作り方についてもまとめた記事がありますので、参考にしてください。

5. 業務フローと作業手順の最適化

このステップは属人化した業務をただ標準化するだけでなく、もう一歩踏み込んで業務改善に繋げたい場合に実施してください。上記までの作業で全体の業務の流れとメンバーごとの作業内容が明らかになります。ここで、再度、可視化された業務内容をメンバー同士で共有しながら改善点や理想的な業務プロセスについて検討してください。担当しているメンバーの人数にもよりますが、整理したフロー図、手順書をみんなで読み合わせながら改善点をブレストすると良いです。指摘を反映したものは理想形のフローとして整理しておきます。

6. マニュアル化の実施

もし、今後新しいメンバーを増やしたり、担当者の入れ替えの発生が想定される場合は、業務手順書をさらにわかり易い形に落としてマニュアル化すると効果的です。もし、特定のツールや機械を利用した業務の場合はマニュアル化しておくことで業務の引き継ぎや教育が簡単になります。

7. 現場装着と定期更新

標準化した業務を現場に装着していきます。必要に応じて勉強会やレクチャーを実施することで変更直後の業務品質を保ちやすくなります。また業務によって段階的な切り替えが可能であれば、徐々に移行していくと良いです。
現場装着が完了した後も、定期的に業務手順の見直しを行うようにしてください。冒頭で述べた通り、標準化された業務も徐々に変化することがほとんどです。業務内容や規模にもよりますが、半年〜1年に1回程度の頻度で現場のメンバーにフロー図、手順書、マニュアルを確認してもらい変更点があるかどうかチェックしましょう。

さいごに

属人化は常に悪いことだとは限りませんので、業務内容や特性から判断するようにしてください。また、属人化を解消するプロセスは非常に大変ですが、正しく標準化することでメンバーの負荷が下がり業務の品質が向上するだけでなく、事業の拡大にも適応しやすくなります。ぜひ、ご自身のチームの持つ強みやノウハウを可視化、標準化してより良い事業づくりに繋げてください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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