オペレーショナルエクセレンスとは、オペレーションが事業における重要な競合優位性となっている状態を指します。この記事では、オペレーショナルエクセレンスの考え方や効果などの基本事項について解説しています。自社の業務改善にあたってオペレーションの見直しを行う際に、ぜひ参考にしてみてください。

オペレーショナルエクセレンスの概要

オペレーションとは|おさらい

ビジネスにおけるオペレーションとは「業務の流れやフローと、それを進行させるための活動」を意味します。抽象的な言葉ですが、例えば商品の販売にあたって発生する受注→製造→梱包→発送という業務の流れがあったとき、この流れ全体がオペレーションと言えます。
オペレーションそのもののイメージがつかない場合はオペレーションという言葉の意味について解説している記事をご確認ください。

オペレーショナルエクセレンスとは

その上で「オペレーショナルエクセレンス」とは、事業運営に関わるオペレーションの効率性を高めることによって、オペレーションが事業における競合優位性となっている状態を指します。
マイケル・トレーシー、フレッド・ウィアセーマという経営コンサルタントらが出版した書籍「ナンバーワン企業の法則」の中で、優良企業の3つの価値基準の一つとして提唱した概念です。

どんな事業であっても、運営にあたっては必ず現場での作業が発生します。事業成功のためにはマーケットやビジネスモデルなど様々な要素が関わりますが、オペレーショナルエクセレンスはその中でも作業手順や流れ、管理方法などのオペレーションが強みとなって、他社からは模倣不可能な状態まで洗練されている状態を表します。具体的な事例は後述します。

オペレーショナルエクセレンスを築くメリット

他社に模倣されづらい強みを持てる

オペレーショナルエクセレンスを構築するためには、オペレーションの実行や管理などの日常的なアクションを磨き込む必要があります。そのためには経営者や管理者などの一部のメンバーだけではなく、業務に関わる全員があらゆる場面で適切な行動・意思決定をすることが求められます。
したがってオペレーションは、ビジネスモデルや製品の機能などと比べて模倣することが難しいため、後から参入する企業にも負けづらい強力な競合優位性となりえます。

半永久的に業務を標準化し、属人化を防止できる

オペレーショナルエクセレンスを持ち続けるためには、人事異動や市場環境の変化による影響を受けることなく、常にオペレーションをベストな状態に保ち続ける必要があります。日々の作業や管理の方法を緻密に管理・改善し続けることで、結果的に業務を標準化し続けることができ、属人化の防止にも繋がります。

オペレーショナルエクセレンスの基本となる考え方|QCD

オペレーショナルエクセレンスの実践にあたっては、企業の生産活動の軸となる「QCD」が重要な観点となります。
「QCD」は生産管理の軸となる3つの単語の頭文字をあわせた言葉で、生産管理の観点・指標として用いられています。「企業が製品を生産し、顧客まで届ける」という一連の生産プロセスの生産性をどのように評価すれば良いか?という場合に、これらの観点で要素分解して考えることでその製品・企業が優れているかを把握することができます。

  • Q: Quality(品質)
  • C: Cost(費用)
  • D: Delivery(納期)
QCDの概要を表した画像です。
QCDの関係性について表した図

詳細は次項で説明していますが、例えばマクドナルドでは一定のQuality(商品の品質) を維持しつつ、Delivery(商品提供にかかる時間)とCost(商品の価格)を極端にカットすることで自社の強みを作り出しています。このように、3つの観点のバランスをとりながらそれぞれを極限まで改善していくことで、オペレーショナルエクセレンスを築き上げることができます。
QCDの詳細は、QCDの意味や活用方法について解説した記事を確認ください。

具体的な企業での事例

実際にオペレーショナルエクセレンスが確立できている状態をイメージしやすいよう、上述しているQCDに当てはめながら、実際の取り組み事例をご紹介します。

マクドナルドの商品提供プロセス

言うまでもありませんが、マクドナルドホールディングスは商品提供に関わるオペレーショナルエクセレンスを持つ企業の一つです。

  • 全国に多数の店舗があり、アルバイトの従業員も多いが、どの店舗であっても常に同じクオリティで商品を提供できている
  • 90秒以内に商品を提供するためにあらゆる対応方法をマニュアル化している
  • その結果、ハンバーガーチェーンとしてだけでなくファストフード店として絶対的な立ち位置を確保し続けている

全国には約3,000もの店舗がある上、アルバイトの比率が高いことも特徴です。また、商品の入れ替えや新商品の発売などもあり、その都度製造・提供工程も変更が必要になります。
その中でも常に安定したQuality(品質)を維持できているのは、あらゆるオペレーションが徹底的にマニュアル化されているためです。マクドナルドではDelivery(納期)の目標として商品の提供時間を90秒以内と定めており、そのために調理手順から接客内容まで全ての対応が整理されています。文書化することはもちろんのこと、必要に応じてOJTも実施します。

これらの工夫によって、初めて接客業務を体験するようなアルバイトからベテランまで、どの店舗であっても、誰でも同じクオリティですべての商品を提供できるようになっています。今やハンバーガーチェーンとしてはもちろん、ファストフード店としても、どの企業にも負けないオペレーションを築けています。

トヨタの「トヨタ生産方式」

トヨタ自動車株式会社では「トヨタ生産方式」と呼ばれる独自の生産スタイルによって、生産活動の効率化を徹底しています。

  • 「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」を用いた独自の生産方式を、トヨタ自動車の創業者(2代目社長)の時代に確立
  • 商品の余剰や不良品を作らず、クオリティの高い自動車を本当に必要な分だけ生産・供給できる体制を実現
  • 自動化・機械化に向けて、手作業で業務プロセスを整えるフェーズを重視
  • 今ではTOYOTA WAYと言われるほど生産活動において模範的な考え方として広まっており、日本だけでなく世界で活用されている

「自働化」と呼ばれる“異常検知のための機械化を進めるために、可能な限り人の手によって工程を作り込む”という考え方と、「ジャスト・イン・タイム」という“各工程が必要なものだけを、停滞なく生産する”という考え方の2つの概念が軸になっています。それによって、必要となった製品だけを正確に作り出し供給できるようになり、コスト(Cost)に該当する人的コスト・費用などの削減可能になっています。
創業初期から無駄なコストの削減に力を注ぎ、100年以上経った今でも、それらの流れがオペレーショナルエクセレンスとして引き継がれています。

製品の品質を維持するためのDeliveryにおけるポイントは、ただ業務を機械化・自動化するのではなく、あくまでも職人の手によってオペレーションを整えていることです。これによって、単純に効率化するだけでなく、作業手順や流れ自体に独自性を生むことが可能になりました。今では効率化・自動化が可能なクラウドサービスも数多提供されていますが、それらの表面的なソリューションを取り入れるだけでなく、そもそも業務オペレーションを正しく整えることの重要性がよく分かる事例の一つです。
参考: 経営理念 – トヨタ生産方式

弊社でのメディア運営におけるオペレーション

当メディア「kaizen penguin」でも、メディアの立ち上げ当初から記事執筆のオペレーションの整理を重点的に行っていました。オペレーショナルエクセレンスと言えるほど作りこめているかは分かりませんが、物理的な商品がない業務、また小規模での取り組みの事例として参考になれば幸いです。

  • 社外のライターさんや執筆経験のない方でも同じようなレベル感・トーンマナーで執筆できるように業務をマニュアル化
  • 手順と進捗状況をまとめて管理できるツールを利用
  • 業務拡大を見据えてメディアの立ち上げ段階からオペレーションの整理に注力し、実践・改善を繰り返していた

弊社では社内のメンバーだけでなく、キーワードによっては外部のライターさんにも執筆を依頼しています。一般にライターさんのスキルは過去の経歴や執筆経験のある記事によって大きく異なりますが、どのようなライターさんでも同じQuality(記事の品質)で執筆してもらえるよう、執筆プロセスの整理・改善に重点的に取り組みました。

執筆オペレーションのイメージ画像です。
実際に利用している、執筆プロセスと手順

また、画像にある業務管理ツール「octpath」を利用して作業の流れと手順を指定しており、ツールに招待するだけで同じ手順を踏んで作業してもらえるようにしています。アウトプットの記入や期限の管理もできるため、業務管理もまとめて行うことができています。

弊社ではこれらのオペレーションの作り込みによって、細かい業務指示や修正が不要になったため、業務管理にかかるコストも軽減することができました。ライティングや制作業務など個人のスキルの影響が大きいと思える業務でも、オペレーションを整えることで大幅な業務効率化が可能であると言えます。

オペレーショナルエクセレンスを構築する際のポイント

可能な限り、初期から作り込む

事業や企業の規模が大きいほど、オペレーションは途中から変更することが困難になります。可能な限り早い段階から整備することがおすすめです。
もし既に業務が進行している場合には、一度にすべてのオペレーションを切り替えるのではなく、一部の業務やチームから少しずつ変更していくと、業務変更によるミスやトラブルを避けやすくなります。新しい業務プロセスを現場に装着する際のコツをご紹介している記事もありますので、合わせて参考にしてみてください。

日常的にオペレーションの違いを意識する

ある程度の業務経験がないと、オペレーショナルエクセレンスがどのような箇所に表れるのか、具体的なイメージが掴みづらいかと思います。個人的な経験として、日常的にオペレーションに意識を向け始めると少しずつ違いが理解しやすくなります。飲食店でも役所でも利用しているツールでも構いませんので、身近にあるオペレーションの違いに目を向けてみることをおすすめします。特に、同じ領域の店舗やサービスを比較すると違いが分かりやすいです。

あくまでも商品に価値があることが前提

当然の項目ですが、オペレーションをどんなに整えたとしても、そもそも提供しているサービス・商品に価値がなければ、成功する事業を作り上げることはできません。自社の商品がお客様の課題やマーケットに正しくはまっていることが確認できている状態を前提として、提供プロセスの最適化のための一つの手段として、オペレーショナルエクセレンスに目を向けてみてください。

おわりに

オペレーショナルエクセレンスは、他社から模倣不可能なレベルでオペレーションを作り込む必要があるため、構築にもかなりの労力がかかります。ただし、今回ご紹介している通り、マーケットや事業モデルが新しいものでなくてもオペレーションの作り込みによって勝ち筋が見出せるケースもあるため、業務改善の一つの手段としてぜひ一度見直しをしてみてください。

また、ご紹介したツール「octpath」は弊社が提供しているツールで、オペレーションの見直しから管理まで役立てられるプロセスマネジメントツールです。業務の属人化に課題を感じられている方や、業務フローの整理ができていない方は、ぜひご検討ください。

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