ファクトベースで物事を捉え、矛盾のない結論を導き出す「ロジカルシンキング」。物事を論理的に考える力はあらゆるビジネスシーンで必要となり、ビジネスパーソンが身につけるべきスキルの一つといえます。
この記事では「ロジカルシンキング」を取り上げ、代表的な推論手法やフレームワーク、鍛えるためのトレーニング方法を紹介します。
ロジカルシンキングとは
ロジカルシンキングとは、ある事象や物事を分解して体系的に整理し、筋道が通るように考えて結論を導き出す思考法です。ロジカル(logical)は「論理的な/合理的な」、シンキング(thinking)は「思考」を意味する言葉で、日本語では「論理的思考」と訳します。
ロジカルシンキングは矛盾や破綻のない筋の通った思考法であり、自分の考えをわかりやすく伝えたり、自分自身で思考を整理したりするときに役立ちます。また、問題に対する原因の究明や解決策の立案、顧客との商談、社内外でのコミュニケーションなど、あらゆるビジネスシーンで活用できるスキルです。
ロジカルシンキングのメリット
ロジカルシンキングのメリットとして以下の点が挙げられます。
- 問題解決力が向上する
- 意思決定がスピーディーになる
- 自分の意見を的確に伝えられる
- 生産性が向上する
ロジカルシンキングでは物事を客観的に捉え、矛盾が生じないように論理的に展開させていきます。自分の感覚に左右されず、多くの情報から必要なものだけを選び取れるため、迅速かつ効率的な問題解決・意思決定ができるようになります。また、自分の意見を論理的に伝えることで、相手からの理解を得やすくなるメリットもあります。
クリティカルシンキングとの違い
クリティカルシンキング(批判的思考)とは、物事を批判的に捉え、その本質を見極める思考法です。「自分や相手の考えは本当に合っているのか」という視点でまずは疑ってかかり、多様な角度から物事を吟味するのがポイントです。物事を整理し一本筋の通った主張を展開するロジカルシンキングに対し、クリティカルシンキングでは前提を疑いながら本質を追求していきます。
ラテラルシンキングとの違い
ラテラルシンキング(水平思考)とは、固定観念にとらわれずに多角的な視点で物事を考察する思考法です。論理的・合理的な思考で矛盾のない一つの結論を導き出すロジカルシンキングとは異なり、ラテラルシンキングでは自由な発想のもとで複数の結論を見出します。ロジカルシンキングやクリティカルシンキングと組み合わせると、より広い視野で柔軟に物事を思考することができます。
ロジカルシンキングの代表的な推論手法
ロジカルシンキングには「帰納法」「演繹法」「弁証法」と呼ばれる代表的な推論手法があります。ここでは各手法の特徴や具体例を紹介します。
帰納法
帰納法とは、複数の具体的な事例から共通点を見つけ、それを根拠として一般的な法則を導き出す手法です。過去の経験やデータなど、個別の事例に共通する要素をまとめて結論に結び付けるもので、説得力の高い推論を展開することができます。ただし、個別の事象から法則を見つけ出すプロセスでは、必ずしも正しい結論を導き出せるとは限りません。これは次に説明する「演繹法」との大きな違いでもあります。
《具体例》
- 事例:イワシにはエラがついている
- 事例:サメにはエラがついている
- 事例:タコにはエラがついている
- 結論:海の生き物にはエラがついている?
演繹法
演繹法とは、すでに明らかになっている普遍的な法則を大前提とし、それをもとに個別的な結論を導き出す手法です。「すべての人間は死ぬ」という大前提から、「ソクラテスは人間である」(小前提)、「ゆえにソクラテスも死ぬ」(結論)というプロセスで個別の結論に辿り着く「アリストテレスの三段論法」が代表例として知られています。大前提となる法則に間違いがない限り、そこから導き出される結論は必然的に正しいものになるといえます。
《具体例》
- 大前提:猫は動物である
- 小前提:私が飼っている”タマ”は猫である
- 結論:私の”タマ”は動物である
弁証法
弁証法とは、肯定的な主張に対して否定的な意見を提示し、これらを統合させてより高次元のモノ・コトに発展させる手法です。肯定的な主張を「テーゼ」、否定的な意見を「アンチテーゼ」、正と反の統合を「ジンテーゼ」といいます。会議やミーティングなどの話し合いの場において、対立する意見をまとめるときに活用できます。
《具体例》
- 主張:コーヒーを飲みたい
- 否定:健康のために牛乳を飲むほうがよい
- 統合:ソイラテを飲む
ここでは「健康のために」牛乳を勧めていることから、コーヒーと牛乳を混ぜ合わせるだけのカフェラテやカフェオレではなく、牛乳よりも低カロリーな豆乳を加えて作る「ソイラテ」を統合案とします。
ロジカルシンキングで用いるフレームワーク
ロジカルシンキングのフレームワークにはさまざまな種類があります。ここでは代表的なフレームワークを4つ紹介します。
ロジックツリー
ロジックツリーとは、一つの事象に対する問題や原因をツリー状に書き出し、事象の全体像を掴んだり最適な解決策を見出したりするフレームワークです。主な種類として「要素分解ツリー(Whatツリー)」「原因追求ツリー(Whyツリー)」「問題解決ツリー(Howツリー)」があります。
- 要素分解ツリー:ある事象を構成する要素を網羅的に把握する
- 原因追求ツリー:ある事象が起きた原因を追求する
- 問題解決ツリー:ある問題に対する解決策を並べて優先順位を付ける
ロジックツリーを用いて問題を可視化することで、解決に向けた道筋を論理的に考えやすくなる、メンバー間で認識を共有できる、物事の優先順位を付けやすくなるなどのメリットがあります。問題を細かく分解したうえで、自社がとるべき具体的なアクションに結び付けることがポイントです。
ピラミッドストラクチャー
ピラミッドストラクチャー(ピラミッド構造)とは、伝えたい主張(結論)とその根拠をピラミッド状にまとめるフレームワークです。ピラミッドの頂点には結論であるメインメッセージを置き、それを証明する根拠を下段に配置する構造です。例えば社内会議やプレゼンテーションの資料など、自分の主張をわかりやすく伝えたい場面で用いられます。
ロジックツリーと似た構造ですが、使用する目的がそれぞれ異なります。ロジックツリーは問題を分解して解決策を見出すための手法、ピラミッドストラクチャーは結論の正当性を説明するための手法です。
MECE(ミーシー)
MECEとは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字を組み合わせた言葉で、日本語では以下のように訳します。
- Mutually(互いに)
- Exclusive(重複せず)
- Collectively(全体に)
- Exhaustive(漏れがない)
MECEはロジカルシンキングの基本となる概念です。これを徹底しなければ、ロジカルシンキングのプロセスが複雑化し、効率が落ちてしまいます。問題の解決に向けて情報を収集・整理する際は、MECEの「漏れなく、ダブりなく」を意識することが重要です。
SMARTの法則
SMARTの法則とは以下の5つの英単語を組み合わせた用語で、目標の有効性を確認するフレームワークです。
- Specific(具体的)
- Measurable(測定可能)
- Achievable(実現可能)
- Relevant(関連性)
- Time-bound(明確な期限)
SMARTに基づく達成可能な目標を設定することは、メンバーのモチベーションやパフォーマンスの向上につながります。また、明確な評価基準に基づく公平な評価ができるようになる、メンバー自身が今後のキャリアプランを描きやすくなるなどのメリットもあります。
ロジカルシンキングを鍛えるトレーニング方法
ロジカルシンキングを鍛えるためには日頃からのトレーニングが必要です。ここでは日常的に実践できる簡単なトレーニング方法を紹介します。
結論から話し始める
自分の意見や提案を述べるときは、まず「結論」を先に持ってくることを意識しましょう。結論を提示せずに話を展開させると、聞き手は話の要点を掴むことができず、集中が途切れてしまいます。先に結論を話し、その後に根拠や事例を持ってきて話を展開させていく流れを習慣づけましょう。そのためには「何を伝えたいか」を明確にしてから話し始めることが大切です。
思考の癖を改善する
クリティカルシンキング(批判的思考)を習得し、自分の思考の偏りを改善するトレーニングも必要です。ロジカルシンキングでは客観的に物事を見る必要があり、自分の主観が入ってしまうと最適な解決策を導き出すことができません。主張に対してまずは疑ってみること、明確な「事実」をもとに話すことを意識するとよいでしょう。
仮説を立てながら考える
日常的に仮説を立てながら考える習慣を身につけると、問題解決の効率とスピードが上がります。ロジカルシンキングでは事実をもとに考察していくため、仮説を立てる際にも多くの情報のなかから信憑性の高いものを選ぶ必要があります。
言葉を具体化する
ロジカルシンキングを鍛えるには、抽象的な言葉を具体化するトレーニングも有効です。例えば「生活習慣を改善する」という目標がある場合、改善するために何をするのか明確にします。抽象的な表現は意識せずに使っていることも多いため、日頃から「具体的に話す」ことを心がけるようにしましょう。
おわりに
論理的で筋道の通った考え方を「ロジカルシンキング」といいます。さまざまな問題や課題が発生するビジネスにおいては、複雑な事象を整理して有効な解決策を導き出す論理的思考が不可欠となります。
ロジカルシンキングには「帰納法」「演繹法」「弁証法」と呼ばれる推論手法や、「ロジックツリー」「ピラミッドストラクチャー」などのフレームワークがあります。これらを有効に活用し、直感や感覚に左右されない論理的な考え方を身につけましょう。