「業務改善をしたい」「生産性を向上させたい」と思っても、テーマが大きすぎて、どこから手を付けてよいのか分からないことも多いのではないでしょうか。
業務改善に限った話ではないですが、最初に取り組むべきは「正しい目標設定をすること」です。ゴールを正しく見定めないと、効果的な業務改善は実現できません。
ただ、「正しい目標設定をする」と聞いても、具体的な自社の目標に落とし込むことは難しい作業です。
この記事では、企業における業務設計や業務改善の支援をしてきた筆者が、抽象的な「業務改善の実現」というテーマを、組織・チームに合わせた具体的な目標に落とし込むための方法やポイントについてご紹介します。
目標設定がなぜ大切なのか
kaizen penguinでは「業務改善」をテーマとして様々なノウハウをお伝えしています。しかし、業務改善は無数のアプローチ、方法が存在し、組織の状態や目的によっても最適解は異なります。
業務改善にあたって全ての組織やチームで、必ず、そして最初に行うのは「目標設定」です。「目標設定は自分たちも既に行っている」と感じるかもしれませんが、実際に「良い目標設定」ができているケースはほとんどありません。
過去に様々なプロジェクトを支援させていただく中で、目標設定の大切さと難しさについて痛感する場面が数多くありました。極端な場合、目標設定がされていないままプロジェクトが開始していることもありました。チームメンバーも感覚レベルでなんとなくの目標はもっていても、言語化されていなかったり、共通化されていなかったりする状態です。
当然、このようなプロジェクトは、施策や取り組みの判断や一貫性が失われ、場当たり的な対応になり、良い結果は得られません。さらに、プロジェクト終了後「このプロジェクトは成功したのか?」すら明確に判断することが難しいのです。
また、目標設定がされていても「内容が抽象的すぎて現場の意思決定に活用できない」「そもそも目標設定が悪く、ズレた施策に取り組んでしまう」場合があります。いずれのケースも、結果の最大化は困難です。
極論すれば、正しい目標設定ができていれば、業務改善は70%は成功していると言っても過言ではありません。正しい目標設定によって、数多く存在する業務改善の具体施策から最良なものを選び取ることができます。さらに、結果の判断も容易に実施できるのです。
正しい目標設定によって得られるメリット
正しい目標設定をすることでプロジェクトやチームが享受できるメリットを整理すると以下になります。当たり前のように思えて「目標設定」とは奥が深いものです。
- プロジェクトにおける判断や意思決定が正しく行える
- 結果の成否を判断しやすくなる
- チームの認識が共通化でき、より精度が高い業務改善が実現できる
- 施策全体に一貫性が生まれ、施策の効果を最大化できる
- 意義・意味が明確になりチームメンバーのモチベーションが向上する
良い目標設定とは
それでは「良い目標設定」とは、どのような条件を満たしいてるものでしょうか。
ご自身の組織の目標設定が以下を満たしているか確認してみてください。
達成すべき指標が定量的に表現されているか
施策の成否を判断するための指標(KGI・KPI)と、定量的な基準を明確にしましょう。プロジェクトの規模にもよりますが、KGI(Key Goal Indicator: 最終的なゴールとなる指標)と、KGIにつながるKPI(Key Performance Indicators: 最終的なゴールに連動するサブ指標)の2つを決めることが一般的です。最低でもKGIは明確にしましょう。
一般的な業務改善のプロジェクトで活用される指標の具体例には以下があります。
- 売上高の向上
- コストの削減
- 利益率の改善
- 作業ミスの発生率の削減
- 1作業あたりの工数削減
- 1作業あたりの作業時間の削減
売上やコストなど金額に関連した指標についてはイメージがつきやすいかと思います。業務改善においては、QCDに関連した指標をKPI/KGIと設定することも多く、QCDの簡単な解説は別の記事にも記載していますので、参考にしてください。
また、作業時間や工数について、詳細を知りたい方は、工数管理の具体的な方法について解説した記事を参考にしてみてください。
期限が明確に設定されているか
特定の課題に取り組む業務改善プロジェクトの場合、期限を設定していることがほとんどかと思います。他の記事でも「業務改善は継続的に取り組むもの」という旨を述べていますが、そのような場合でもチェックポイントとなるようなタイミングは設定しましょう。
期限は最終的なゴールだけでなく、途中の振り返りを実施する期限もセットで決めることを推奨します。同時に、KGI・KPIの中間目標も明確にしておきましょう。
多少の困難さを伴う目標か
チームの能力を最大限引き出すためのポイントになります。達成できる確率が80%くらいで、創意工夫と努力があれば手が届くかも、と感じるやや高めの目標を設定しましょう。簡単すぎる目標だと士気が上がらず、逆に難しすぎると心が折れてしまいます。
「理由」がセットになっているか
目標は「なぜ」「なんのために」、つまり”Why”の部分が明確になっている必要があります。これが重要な理由は2つあります。
1点目は、メンバーのやる気が向上するためです。松下幸之助の有名なエピソードに、「電球を磨く」という単純な仕事をつまらなさそうに担当するメンバーに、「君が磨いた電球の明かりで、家に帰って安心できる人や、夜になっても勉強をできる人がいる」と、その仕事の意義を伝えた話があります。単純に「電球を磨け」と言われるよりも「人々の生活を豊かにするために電球を磨く必要がある」と説明されたほうが、当然、力が湧いてくるものです。
2点目は、プロジェクトの途中に目標を修正する場合の拠り所になるためです。完璧な目標設定は簡単ではありません。いざプロジェクトをスタートしたが、途中で目標の誤りに気づくことも往々にしてあります。その場合、目標の見直し、再設定が必要なりますが、その時に目標の「理由」に立ち返ることで、再設定が容易になるのです。
関係者を含めた最適な目標になっているか
目標に取り組む組織の範囲にもよりますが、その組織にとっての目標が、関係者にとってもメリットがある内容になっているか確認してください。言い換えれば全体最適になっているかという観点です。大きな組織でまれに見られることですが、特定の部署やチーム単位で目標設定をした際に、その目標が別の部署にとっては、マイナスになる場合もあります。
極端な例ですが、業務効率化のために、システムの廃止を進めていたところ、実はまったく想定していなかった部署が、同じシステムを利用していて廃止が難しくなる、というような場合です。
良い目標設定のための具体的なステップ
それでは業務改善のための良い目標設定をするためにはどうすればよいのでしょうか。実際の現場では様々な制約や条件があるかと思いますが、ここでは一般論として理想的な流れを記載します。
恐らく、全ての流れを完璧に踏襲することは難しいかと思いますが、各ステップを何のために実施しているかがわかれば、代替手段や工夫によって良い目標設定にたどり着くことができるはずです。ぜひ、参考にしてみてください。
ステップ1: 叩き台となる課題・目標の洗い出し
最初に骨子となる内容を検討します。可能であれば、リーダー1人ではなくチームメンバー数名でディスカッション形式で内容の洗い出し、整理を実施すると様々な観点から検討できます。
特に重要なのが「課題の発見」です。通常、目標設定は課題と連動することがほとんどで、「特定の課題を解決すること=目標」と言い換えることが可能です。また、ここでは「合っているか間違っているか」は気にしないようにしてください。「当たりをつける」だけで十分です。この後のプロセスの現状把握や追加の検討を行う際に、ここで確認した内容を基準とすることで、より高精度な検討が可能となります。具体的な検討ポイントの例を以下に列挙しておきます。
- 改善の対象とする業務の範囲(スコープ)
- 自分たちの業務の理想的な状態
- QCDにおけるどの要素に課題がありそうか
- 業務効率化を最大化するためにはどの課題を解決すべきか
- 概ねのスケジュール感
また、“業務の効率性、生産性”を考える場合、QCDの観点がフレームワークとして有効です。上部でも紹介していますが、QCDの簡単な解説は別の記事に記載していますので、参考にしてください。
ステップ2: 業務・実態についての現状把握
前項で確認した内容をもとに、実際の状況を確認します。この作業は「想定している課題が正しそうか」「他にもっと重要な課題がないか」「課題を生み出している状況はどうなっているか」を明らかにするための作業です。既に課題が明らかな場合も「実態を確認する」という観点で臨んでください。以下が代表的なアプローチ方法です。
参考数値について入手
コストや売上など入手可能な基本数値やデータを収集します。各作業の所要時間や対応件数などのデータが見つからない場合は、次項の業務ヒアリングで現場の状況を確認しましょう。
ヒアリングの際は音声を自動で文字起こしする『Texta』がおすすめです。
業務ヒアリングの実施
作業を行っているメンバーに対して、業務内容や課題感についてヒアリングを行います。具体的な業務ヒアリングの方法をまとめた記事を確認して取り組んでください。
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フローチャートの作成
ヒアリングした内容から業務のフローチャートを作成します。フローチャート作成の方法の記事を確認してください。この際には、ただ、フローチャートを作成するのではなく、フローの各ステップで確認できた現場のコメントや課題感、おおよその作業工数などを記録すると良いでしょう。
より精緻な検証を行う場合に、業務手順書のレベルで作成することもありますが、この段階ではそこまで必要ありません。
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ステップ3:課題の確定と目標の設定
現状把握が完了したら、再度最初に設定した内容と照らし合わせて、目標を最終化していきます。「より少ない工数でより大きな効率化が実現できるか」「その改善の実現は現実的か」に意識して取り組みましょう。目標を作成後、前述した良い目標の条件に照らし合わせてチェックしてください。
- 達成すべき指標が定量的に表現されているか
- 期限が明確に設定されているか
- 多少の困難さを伴う目標か
- 「理由」がセットになっているか
- 関係者を含めた最適な目標になっているか
まとめ
業務改善における目標設定の重要性と具体的な取り組み方についてご理解いただけましたでしょうか。組織によって目指すべき目標は千差万別ですが、上記の方法を参考にしながら、ぜひご自身にとって最適な目標設定をしてください。
また、目標は一度立てた後、施策を進めるなかで変更するケースもあります。「一度決めたから」と固執せず、臨機応変に対応してください。本記事のプロセスを経て決めた目標であれば、変更する場合も大きな齟齬なく、より良い内容にアップデートできるはずです。