競争環境が厳しい現代において、競合の動向を正確に把握することは自社が勝ち残るための第一歩となります。競合分析は、市場内での自社の立ち位置を理解する手段であり、競争優位性を確立するための戦略策定に欠かせません。
この記事では、競合分析の基本的な手順やフレームワーク、分析の精度を高めるポイントについてわかりやすく解説します。
競合分析とは
競合分析とは、自社事業と競合する企業の状況を分析し、自社の戦略や意思決定に活かすことです。激しい競争環境のなかで自社の優位性を確保するには、市場の現状や他社の提供価値を理解し、競合状況を踏まえた勝算のある戦略を打ち出す必要があります。競合他社との比較を通じて、市場における自社の立ち位置や差別化ポイント、優先的に取り組むべき課題を把握することが不可欠です。
競合分析の目的
競合分析を行う目的は、自社が取るべき戦略の根拠を収集して意思決定の質を高め、競争優位性を確立することにあります。具体的には以下の3点が挙げられます。
- 新製品の市場投入に向けた戦略を策定するため
- 既存の製品・サービスの改善方針を設計するため
- 新規市場への参入、または既存市場からの撤退を判断するため
自社を取り巻く競争環境を正しく把握することで、市場における自社の立ち位置や強み・弱みが明確化し、戦略の妥当性や進むべき方向性を合理的に判断できるようになります。
競合企業の種類
競合企業の種類は大まかに「直接競合」「間接競合」「代替競合」の3つに分類されます。類似する商品で直接的に競合する企業だけでなく、異なる商品や手段で同じ顧客ニーズを満たす企業も含まれます。
| 種類 | 概要 | 例 |
|---|---|---|
| 直接競合 | 同業界内で類似する商品・サービスを提供し、同じ顧客層を狙っている企業 | スターバックスとドトールコーヒー |
| 間接競合 | 自社とは異なる商品やサービスでも、顧客の選択肢として競合し得る企業 | 焼肉店と寿司屋 |
| 代替競合 | 自社とは異なる手段で、同じ顧客ニーズを満たす企業 | 映画館と動画配信サービス |
これらに加え、オンライン上の検索結果も競合となり得ます。自社のターゲットが検索するキーワードで上位に表示される他社サイトは、認知や集客の面で自社と顧客を奪い合う存在となるからです。
競合分析で見るべき主な項目
競合分析を行う際は、どの観点で比較するかをあらかじめ明確にしておくと、情報収集や分析の精度が高まります。多角的な評価を行うには、商品の内容や価格帯だけでなく、以下に挙げるさまざまな切り口から競合を捉えることが重要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商品・サービスの特徴 | 商品の機能、品質、デザイン、サポート体制などを調査し、他社の強みと弱み、自社との差別化ポイントを整理する |
| 価格・料金体系 | 商品の価格帯、料金プラン、割引施策などを調査し、他社の価格戦略や価格競争力、収益構造を把握する |
| マーケティング戦略 | 広告、販促活動、ブランディングなどを調査し、他社の集客方法や訴求ポイント、自社との違いを整理する |
| 認知度・顧客満足度 | 顧客アンケートやレビューサイト、SNSの投稿などから、ブランドの認知度や顧客の評価を読み取る |
| 市場シェア・ポジション | 現在の財務状況や立ち位置を調査し、今後の事業展開や成長性も踏まえて、市場での存在感を評価する |
競合分析の基本ステップ
競合分析の基本的なステップは次の通りです。
- 競合をリストアップする
- 競合の情報を収集する
- フレームワークを使って分析する
- 分析結果を戦略に活かす
これらの手順を踏むことで、競合の状況と自社の立ち位置を正しく理解し、具体的な戦略に落とし込むことができます。各ステップについて以下で詳しく解説します。
【1】競合をリストアップする
まずは分析対象となる競合企業を網羅的にリストアップします。
詳細な情報収集は次のステップで行うため、この段階では他社がどのような商品やサービスを提供しているかについて簡単に書き留める程度で問題ありません。直接競合だけでなく、間接競合や代替競合も含めることで、より多角的な分析と精度の高い意思決定を行えるようになります。
【2】競合の情報を収集する
リストアップした企業の中から、分析対象として優先度の高い競合を選定し、詳細な情報を収集します。
企業のホームページやカタログ、プレスリリース、業界レポート、口コミサイトなど、公開されている情報源を徹底的に活用するほか、必要に応じてインタビューやアンケートなどの市場調査も行います。このとき、マーケティング戦略を検討する際に活用される「4P」に当てはめると、情報の整理を効率的に行えます。
- Product(商品):商品の機能、品質、デザイン、ラインナップなど
- Price(価格):価格帯、利益、割引・キャンペーンなど
- Place(購買場所):販売チャネル、店舗・オンライン展開、流通戦略など
- Promotion(プロモーション):広告、販促活動、SNSでの情報発信など
【3】フレームワークを使って分析する
収集した情報を整理し、市場における自社の優位性や競合環境を多角的に評価するには、各種フレームワークによる分析が有効です。
自社の強みと弱みを明らかにする場合は、まず「3C分析」で市場全体と自社の立ち位置を把握し、その情報をもとに内部環境と外部環境を整理する「SWOT分析」を行うのが効果的です。加えて、市場への新規参入・撤退を検討したい場合は、複数の要素から競争の激しさや自社への脅威を理解する「5フォース分析」が適しています。
競合分析に役立つフレームワークについては、次章で詳しく解説しています。
【4】分析結果を戦略に活かす
競合分析の結果は必ず自社の戦略や判断に役立てましょう。競合の状況を踏まえて自社の優位性や改善点を明確にし、新製品の投入や既存事業の改善、参入・撤退の判断といった具体的な戦略を策定します。
また、競合分析は一度で終わるものではありません。市場や競合の変化に応じて定期的に見直し、それに合わせて自社の戦略を柔軟に修正・改善することが重要です。
競合分析に活用できるフレームワーク
競合分析を効率的に行うには、情報を体系的に整理できるフレームワークの活用が有効です。ここでは、競合分析に活用する主要なフレームワークをご紹介します。
3C分析
3C分析は、顧客・競合・自社の3つの視点から業界環境を整理する手法です。個人の主観や価値観を入れず、事実に基づく情報を集めることがポイントです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Customer(市場・顧客) | 市場規模、市場動向、顧客ニーズ、消費行動などを分析し、どのような顧客がどのような価値を求めているかを把握する |
| Competitor(競合) | 競合のシェア、ポジション、商品戦略などを分析し、市場における競合環境や他社の状況を把握する |
| Company(自社) | 自社の強み・弱み、ブランド力、技術力、市場シェアなどを整理し、競合との違いや優位性を明らかにする |
SWOT分析
SWOT分析は、対象の内部環境と外部環境を整理し、それぞれのプラス要因・マイナス要因を明らかにする手法です。自社の内部環境にどのような「強み」と「弱み」があるか、また自社を取り巻く外部環境にどのような「機会」と「脅威」があるかを特定します。
| プラス要因 | マイナス要因 | |
|---|---|---|
| 内部環境 | Strength:強み 自社や自社製品・サービスの長所 |
Weakness:弱み 自社や自社製品・サービスの短所 |
| 外部環境 | Opportunity:機会 自社に好影響を与える社外の環境 |
Threat:脅威 自社に悪影響を与える社外の環境 |
SWOT分析の各項目や分析手順については以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:SWOT分析とは|分析の具体例からやり方まで基礎知識を解説
5フォース分析
5フォース分析は、自社事業における競争要因を評価する手法です。以下に示す5つの脅威を分析し、業界の収益構造や自社の競争優位性を明らかにします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業界内の競争 | 競合企業の数、ブランド力、資金力、技術力などから、業界内の競争環境の厳しさを評価する |
| 新規参入の脅威 | 参入企業のブランド力、資金力、技術力などから、新規企業がどの程度参入しやすいかを評価する |
| 代替品の脅威 | 想定される代替品業界の動向や自社製品との違いを分析し、代替品との競争リスクを評価する |
| 買い手の交渉力 | 顧客の影響力や選択肢の多さを分析し、価格や品質に対する交渉力の強さを評価する |
| 売り手の交渉力 | 仕入れ先の数や市場規模、仕入れ価格、切替コストなどを分析し、自社との力関係や収益への影響度を評価する |
STP分析
STP分析は、自社が狙うべき市場と提供価値を明確にする手法です。まず市場の細分化(セグメンテーション)を行い、自社の強みを活かせるターゲットを見極め(ターゲティング)、自社の立ち位置(ポジショニング)を決定します。基本的には3CやSWOTなどの環境分析の後に実施し、実行可能な戦略へと落とし込んでいきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Segmentation(セグメンテーション) | 年齢、性別、地域、ライフスタイル、購買行動などで市場を細分化する |
| Targeting(ターゲティング) | 細分化した市場の中から、自社が最も競争優位を発揮できるターゲット市場を選定する |
| Positioning(ポジショニング) | ターゲット市場において自社製品がどのような価値を提供するかを明確にし、市場内での立ち位置を決める |
競合分析の精度を高めるポイント
最後に、競合分析の精度を高めるために押さえておきたいポイントを解説します。
定量・定性の両面から競合を捉える
競合分析では、数値で表現される定量的なデータだけでなく、顧客の声や行動といった定性的な情報もあわせて確認することが重要です。特に価格だけに注目すると、単なる値下げ競争に陥りやすくなり、本来注目すべき価値や強みを見失う可能性があります。その商品が「なぜ選ばれているのか」「何が評価されているのか」という視点で、定量・定性の両面から競合を分析する姿勢が必要です。
競合環境を継続的にモニタリングする
競合分析は一度きりで終わらせず、継続的なモニタリングが欠かせません。市場環境や顧客ニーズは常に変化するうえ、技術革新や業界再編によってこれまで競合と認識していなかった業界からの新規参入が起こったり、まったく異なる分野から代替品が登場したりする可能性があります。定期的に競合環境をチェックし、新たな脅威にも対応できる体制を整えることが求められます。
おわりに
競合分析は、自社が取るべき戦略の根拠を整理し、意思決定の精度を高める手段となります。市場構造や競合他社の動向を分析することで、自社の立ち位置や差別化ポイントが明確になり、新事業の立ち上げや既存事業の見直し、新規参入・撤退の判断などに活かすことができます。本記事を参考に競合分析の基本を理解し、自社の戦略策定や意思決定に役立ててください。
